民法903条1項の定める相続人に対する贈与(1)

 民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、民法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となるものと解するのが相当である、とされます。

 

 

平成10年3月24日 最高裁判所第三小法廷

事案の概要は以下の通りです。

 

 亡A(昭62・8・20死亡)の相続人は、妻であるX1、長女であるX2及び長男であるY1である。Y2はY1の妻、Y3及びY4はY1とY2の子である。X1X2は、亡Aが67歳の時にY1~Y4にした土地の生前贈与(昭53・10・16と昭54・1・16の二回に分けて贈与された)がX1X2の遺留分を侵害するとして、当該土地のうち一定のものについて遺留分減殺により原告らに帰属した持分の移転登記請求をしました。

 

 本事案の争点は、亡Aが相続開始時に有していた財産の範囲、各相続人の特別受益の内容等多岐にわたりますが、最高裁で問題となったのは、亡AのY1~Y4に対する生前贈与が遺留分算定の基礎となる財産の範囲に入り、かつ遺留分減殺の対象となるかという点でした。

 

 

(特別受益者の相続分)

 

 第903条

  1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本と

  して贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価

  額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の

  価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

 

 

(遺留分の算定)

 

第1030条

 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。