遺留分減殺請求(1)

 

 遺留分減殺の相手方(被減殺者)が複数いる場合において相続人である被減殺者は民法1034条の適用上、

 

①遺贈等の全額の割合に応じた減殺を受けるのか、

②遺贈等から遺留分額を控除した残額の割合に応じた減殺を受けるのか、

 

という問題があります。

民法第1034条(遺贈の減殺の割合)

 

 遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

とあります。

 

最高裁 平成10年02月26日 判決では

 

 相続人に対する遺贈が遺留分減殺の対象となる場合においては、右遺贈の目的の価額のうち受遺者の遺留分額を超える部分のみが、民法1034条にいう目的の価額に当たる。

 

とされました。

事案の概要は以下の通りです。

 

 本件の相続人は、被相続人の妻である原告、四女である被告のほか、長女B・二女C・三女D・五女E、相続開始前に死亡した長男Aの子であるA1・A2・A3・A4の合計10名である。被相続人は、遺言により相続人全員に対してすべての遺産を分割して相続させ、又は遺贈したが、原告の取得額が少なく、その遺留分に満たなかった。

 原告は本件相続させる遺言により相続した財産のうち遺留分減殺の結果原告に帰属する持分についての所有権確認と移転登記手続きを求めたものである。

遺留分侵害額を算定してみましょう。

 

原告が相続した財産の価額         8,695万9,000円

四女が相続した財産の価額         2億8,100万円

B,C,D,Eが相続した財産の価額    3億8,757万6,000円

(各人の相続財産価額)          (9,689万4,000円)

A1,A2,A3,A4が相続した財産の価額 2億7,900万円

(各人の相続財産価額)          (6,975万円)

 

加算される生前贈与,控除される債務額はありません。

 

この場合,

 

民法第1028条 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合に相当する額を受ける。

一 直系尊属のみが相続人である場合 被相続人の財産の三分の一

二 前号に掲げる場合以外の場合 被相続人の財産の二分の一

 

民法900条 同順位の相続人が数人あるときは,その相続分は,次の各号の定めるところによる.

一  子及び配偶者が相続人であるときは,子の相続分及び配偶者の相続分は,各二分の一とする.

二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは,配偶者の相続分は,三分の二とし,直系尊属の相続分は,

  三分の一とする.

三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは,配偶者の相続分は,四分の三とし,兄弟姉妹の相続分は,

  四分の一とする.

四  子,直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは,各自の相続分は,相等しいものとする.ただし,嫡出で

  ない子の相続分は,嫡出である子の相続分の二分の一とし,父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相

  続分は,父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする.

 

 

とあるため,原告の遺留分額は10億3,453万5,000円×1/2×1/2=2億5,863万3,750円となります。

 

 したがって,原告の遺留分侵害額は2億5,863万3,750円-8,695万9,000円=1億7,167万4,750円となります。

 

 本件では,この侵害額を誰にいくら減殺請求できるのかが問題となっていたのです。