知的資産経営(1)

「知的資産」とは、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク、ブランド等の目に見えない資産のことで、企業の競争力の源泉となるものです。これは、特許やノウハウなどの「知的財産」だけではなく、組織や人材、ネットワークなどの企業の強みとなる資産を総称する幅広い考え方です。

 

 

 会計で認識・測定できるのは「知的財産権」である特許権、実用新案権、著作権です。

 

 

 非財務情報である「知的財産」であるブランド、営業秘密、ノウハウ、といった概念よりさらに広い概念が、人的資産、組織力、経営理念、顧客とのネットワーク、技能といった「知的資産」です。

 

 わが国の場合、ミクロ的な視点によると90年代は研究開発の効率性が企業の収益性と相関関係をもち、その収益への影響力が大きくなっています。

 

 米国等の優良企業の多くが、知的資産を重視した知的財産経営を実践していることが報告されています。

 

 マクロ的な視点によれば、少子高齢化、人口減少を根拠として国内経済規模の拡大は困難といえ、ハイパー円高のもとグローバルなコスト競争では新興国に勝てません。

 

 そこで自らの固有の力を活かし、商品・サービスの差別化を通じて、価値・利益を創造・実現することが大切になります。それが知的資産経営なのです。

 

 

 知的資産を活用した他者との差別化はどのようにすればよいのでしょうか?

 

 

次の事例を検討しましょう。

 

 株式会社トレードという青果直販事業を行う会社のお話です。全国の農家や生産者団体などから青果物を直接仕入れてブランド化し、卸売り市場やスーパーなどに直販する事業を行っています。

 既存の青果流通では、青果物の取引価格は常に相場に左右され、生産者の意向が反映されない仕組みになっていましたが、この問題を解決するため、株式会社トレードは自社リスクでブランド化を行い、生産者をサポートし、青果物を適正な価格で取引先に提供するという直販事業を展開しています。

 

 

 株式会社トレードの知的資産を検討してみます。

 

 

知的資産はわが国では以下の3つに分類され認識されます。

 

1 人的資産: 従業員が退職時に一緒に持ち出す資産、例えばイノベーション能力、想像力、ノウハウ、経 

  験、柔軟性、学習能力、モチベーション等。

 

   本事例では、社長が前職で場外青果卸売業界に精通しており、業界内の知人といった業界経験による

  人脈と知識が大きな知的人的資産でした。

 

 

2 構造資産: 従業員の退職時に企業内に残留する資産、例えば組織の柔軟性、データベース、文化、シス

  テム、手続き、文書サービス等。

 

   本事例では、取引の信用向上のために、ITを利用した販売管理システムを構築した上で、スピーデ

  ィーで確実な決済システムの構築、異業種出身者が多い中、社員を短時間で営業戦力化するためにIT

  を活用した営業システムの構築が、知的構造資産でした。

 

 

3 関係資産: 企業の対外的関係に付随した全ての資産、例えばイメージ、顧客ロイヤリティ、顧客満足

  度、供給業者との関係、金融機関への交渉力等。

 

   本事例では、流通に掛かる時間短縮のために、24時間365日稼動する冷蔵保管倉庫の開発、野菜

  の安定供給を目指し、農学、工学のプロフェッショナルと共同で屋内環境での栽培を研究、野菜工場計

  画の立案等が企業外部との知的関係資産といえます。

 

 

 

 これらの知的資産を活かした結果、株式会社トレードは全国の中央卸売市場に取引先を広げ、京都府内ではトップクラスの売上規模となりました。

 また、自社物流センターのため温度・入出庫管理の記録をPCデータで取引先に提供出来ることとなり、取引先との関係が強化できました。

 

 

 経営数値的には、2001年の設立後、4年間で売上高を20億円から91億円に伸ばしました。

 

 

 社長は前職の関係で場外青果卸売業界に精通しており、業界内の知人も多く比較的有利な状況から事業を開始し、この知的人的資産をベースに、青果物が余っている市場から不足している市場へ転売するという実は単純なビジネスモデルに構造資産、関係資産を集中させ、成功したのです。