Tax Shelter(6)負担付贈与契約

 

 相続税法22条は、相続財産の価額は、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しており、時価とは相続開始時における当該財産の客観的な交換価格をいうものと解される。

 

 

 客観的な交換価格というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。

 

 これは、相続財産の客観的な交換価格を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価価額が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。

 

 そうすると、特に租税平等主義という観点からして、通達に定められた評価方式が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるから、特定の納税者あるいは特定の相続財産についてのみ右通達に定める方式以外の方法によってその評価を行うことは、たとえその方法による評価額がそれ自体としては相続税法22条の定める時価として許容できる範囲内のものであったとしても、納税者間の実質的負担の公平を欠くことになり、許されないものというべきである。

 

 しかし、他方、通達に定められた評価方式によるべきであるとする趣旨が右のようなものであることからすれば、右の評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方式によることが許されるものと解すべきであり、このことは、右通達において「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。

 

 すなわち、相続財産の評価に当たっては、特別の定めのある場合を除き、評価通達に定める方式によるのが原則であるが、評価通達によらないことが相当と認められるような特別の事情のある場合には、他の合理的な時価の評価方式によることが許されるものと解するのが相当である。

 

 

と説示し、本件については以下のように判示しました。

 

 

 Xが死亡する約2か月前の昭和62年10月に、大手不動産会社の公表していた分譲価格である7億5850万円で買い受け、Y,Zらがその翌63年に7億7400万円で他に売却した本件マンションの本件相続開始における客観的な交換価格(時価)は、Xの取得価額である7億5850万円を下回るものではなかったと考えられるところである。ところが、相続税の課税に当たって、本件マンションの価額を評価通達に基づき1億3170万7319円と評価して相続財産に計上し、その購入資金である本件借入金8億円をそのまま相続債務として計上すると、右借入金は本件マンションの価額から控除しきれないことから、その差額が他の積極財産の価額から控除されることとなり、その結果として、本件マンションの価額を右の取得価額である7億5850万円と評価した場合と比べると、この価額と右の評価通達に基づく評価額との差額に相当する6億2679万2681円だけ課税価格が圧縮されることとなることは明らかである。

 そもそも、本件の場合のように、被相続人が相続開始直前に借り入れた資金で不動産を購入し、相続開始直後に右不動産が相続人によってやはり当時の市場価格で他に売却され、その売却金によって借入金が返済されているため、相続の前後を通じてことがらの実質を見ると当該不動産がいわば一種の商品のような形で一時的に相続人及び被相続人の所有に帰属することとなったに過ぎないとも考えられるような場合についても、画一的に評価通達に基づいてその不動産の価額を評価すべきものとすると、他方で右のような取引の経過から客観的に明らかになっているその不動産の市場における現実の交換価格によってその価額を評価した場合に比べて相続税の課税価格に著しい差を生じ、実質的な租税負担の公平という観点からして看過し難い事態を招来することとなる場合があるものというべきであり、そのような場合には、前記の評価通達によらないことが相当と認められる特別の事情がある場合に該当するものとして、右相続不動産を右の市場における現実の交換価格によって評価することが許されるとするのが相当である。そして、右認定のような事実関係からすれば、本件はまさにそのような場合に該当するものといわなければならない。

 

 

と、取引価格を時価としたのです。

 

 

 当該不動産を価格上昇期で売り抜けなければ違う結果になっていたのでしょうか?評価通達の価額が適正価額で、当時の実体経済を超えた取引価額が異常なのであって、もし売却のタイミングが遅れ、売却益が生じなかったら違う結果となっていたのでしょうか?