Tax Shelter(5)負担付贈与契約

 

 昭和61年ころから不動産の価格、とりわけ土地の価格は次第に上昇の速度を早め、土地の実勢価格と相続税法における評価の基準とされる路線価による土地価格との間に著しい乖離が発生しました。そこで、不動産を借入金によって購入することにより相続財産の評価額を本来の財産の価格よりも低くして節税ができました。

 

 例えば財産評価通達による評価額1億円、時価2億円の土地を自己資金1億円、借入金1億円で購入し、当該土地を借入金の負担付で子供に贈与します。そうすると贈与税の負担はありません。また相続が発生した時にも自己資金分の相続税が圧縮できます。

 

 

次の事例を検討してみましょう。

 

 

 Xは、明治25年生まれ(死亡当時95歳)で、丁大学の会頭理事であったが、かねてから不動産等の資産運用に関心を持っており、昭和60年ころには銀行からの長期の借入金で自己所有の貸家をマンションに建て替える等したこともあり、相続税対策についても、借入金により不動産を購入すること等によって相続税の負担を軽減させるという節税方法について関心を示していた。

 なお、Xは、糖尿病、動脈硬化症、前立腺肥大症、腰椎圧迫骨折の病名で、昭和59年7月から毎年入院を繰り返すようになり、死亡前も、昭和62年9月9日から入院するに至っていた。

 昭和62年8月末ころ、子供のY,Zは、Xの意向を受けて、R社を訪れ、5 億ないし10億円程度の更地の土地を購入したい旨申し入れたところ、同社には適当な更地物件がなかったことから、同社赤坂支店長は、Y,Zらに対し、同社がK不動産株式会社と共同で分譲を開始したマンションを購入物件として紹介した。 その後Y,Zらは交渉を重ね、同年10月初旬、Yが買主となって本件マンションをR及びKから買い受ける方向で話がまとまり、更に、その購入資金についても、Y,Z両名が借入れ先の紹介をRに依頼したところ、同社からその関連会社であるFファイナンス株式会社を紹介され、同社から購入資金の融資を受けることとなった。

 昭和62年10月9日、Yは、前記のとおり入院中のXの代理人として、R及びKとの間で、本件マンションを右両社の公表していた分譲予定価格である7億5850万円で購入する旨の売買契約を、Rとの間で、購入した本件マンションを賃料月額166万4000円で同社に賃貸する旨の貸賃借契約を、Fとの間で、本件マンションの購入資金等として8億円を借り入れる旨の金銭消費貸借契約を、それぞれ締結した。なお、右借入金のうち、7億5938万円は本件マンションの代金の支払に充てられ、その余は、借入金の利息、登録免許税等の支払に充てられた。

 本件マンション購入資金借入れのための金銭消費貸借契約は、元金返済を3年間据え置いたうえでこれを17年間で分割返済し、利率は年7.2パーセント(月額利息約480万円)とするというものであり、また、右本件マンションの賃貸借契約は、Rが本件マンションを他に転賃貸することをあらかじめXが承諾し、賃貸期間を2年とし、Rの賃料支払義務を昭和62年12月まで免除するというものであった。

 昭和62年12月19日、Xは死亡した。Y,Zらは、昭和63年1月22日、Xの遺産について分割協議をし、本件マンションについては、Y,Zが各四分の一ずつでこれを共有することとなった。同年1月30日及び2月3日に、Y,Zらは、Rとの間で、本件マンションの売却に関する一般媒介契約を締結し、同年4月上旬から7月下旬にかけて、同社の媒介によって本件マンションを総額7億7400万円で他に売却した。なお、前記Fからの借入金の大部分は、この売却金によって返済されるに至っている。

 

 

 本件マンションの価額は、財産評価通達に従うと1億3170万7319円でした。財産評価通達は、相続税の課税対象となる財産の評価に関する原則及び具体的評価方法を規定したものであり、あらかじめ納税者に対しても広く公示されているものであるから、これを用い、積極財産が1億円弱、相続債務が8億円として、相続税の負担を回避できるでしょうか?