Tax Shelter(3)

 

 日本の内国法人Xのオランダで実現した、キャピタルゲインについて、税務署は当初、法人税法22条で課税要件を構成する主張、論証を行いました。

 

 

 法人税法22条1項の、「内国法人の各事業年度の所得の金額は、当該事業年度の益金の額から当該事業年度の損金の額を控除した金額とする。」と定めるところ、同条2項は、「内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする。」との規定から、法人の無償による資産の譲渡によって利益が実現したと認められる場合には、その収益が益金に算入される、と主張したのです。

 

 税務署は最高裁昭和41年判決を引用し、同判決は、含み益部分が株式から切り離されて譲渡されたときに、その部分が相当対価によって実現したものとして益金を構成し、この場合における旧株主から新株主への経済的利益の譲渡は、増資会社に対する指名権の行使という態様によっても可能であることを明らかにしたものであるとした上で、本件において、Xは、A社に対する指名権の行使と同視することもできる本件決議という態様によって、B社への第三者に対する新株の有利発行を行わせたのであるから、旧株主であるXから新株主であるB社への新株プレミアム相当の経済的利益の譲渡(無償取引)があったというべきである、と論証しました。

 

 これに対し東京地裁(平成13年11月9日)は、しかしながら、最高裁昭和41年判決の事案は、納税者が株式を有していた3つの会社からそれぞれ増資の決議により新株引受権を与えられ、このうち2社分については新株引受権付きの旧株式を自己の取締役に信託的に譲渡し、他の1社分についてはプレミアムが少ないため払込期間内に払込をしなかったことによりいったん新株引受権を喪失した後、増資会社から当該失権株について縁故割当をしたいから引受人を指定してほしいとの申出があったため、やはり自己の取締役を指名したというものであり、同判決は、原判決がいずれの場合にも当該納税者には新株の割当に関連する何らかの利益がいったん帰属しそれが納税者の取締役に移転したとみることができると認定したことを前提とし、その利益は、先の2社分については納税者所有の旧株式の値上がり部分そのものであって、後の1社分については増資会社から与えられた第三者指名権であるが、これは旧株式の増価部分と同視して妨げないと判示しているのである。

 

 すなわち、同判決は、いったん旧株主に新株引受権が付与されることにより旧株式が具体的に増価し、それが払込期限の徒過により消滅したかにみえたにもかかわらず、増資会社からの縁故割当のための第三者指名権の付与により復活し、その復活した増価分を指名権の行使により譲渡したとみているのであり、当該指名行為を、いまだ新株引受権が有効に付着している状態の旧株式を譲渡したのと同視したに等しいのである。

 

 本件ではこれに対し、Xについては本件決議以前には抽象的な含み益があったのみで(このような含み益は、最高裁昭和41年判決の事案のうち、第三者指名権が付与された株式に関する部分においても、少ないとはいえプレミアムが発生する形で新株が発行される会社の株式を有していた以上、増資決議がされる以前の時点において当該納税者も有していたものというべきである。)、X所有の株式が具体的に増価したとみることはできないから、本件決議によって譲渡したとみるに足りる具体的な増価分は存在しないというほかない。

 

 すなわち、最高裁昭和41判決の事案における第三者指名権の行使と本件決議とは新株を引き受けるべき者を指定している点においては共通しているが、前者においては、それによって譲渡したものとみるべき具体的利益が存在したのに対し、後者においては、それが存在していない点に大きな差違が存するのである。

 

 また、双方ともに株式の割当自体は増資会社が行うものであって、旧株主は新たな引受人との間で直接的な行為をしない点においても共通しているが、前者においては、いったん旧株主に新株引受権が具体的に帰属し、それが付着した旧株式自体を旧株主が譲渡することが可能であったことに着目して、第三者指名権の行使をそのような譲渡行為と同視することが可能であったのに対し、後者の場合には、XとA社との間には直接的な行為があったと同視し得る事情は見当たらない。

 

 以上によると、最高裁昭和41年判決は、本件と事案を異にするものであり、その判示は本件には当てはまらないものというべきである、と説示しました。

 

 

 次に税務署は法人税法132条の、「税務署長は、次に掲げる法人に係る法人税につき更正又は決定をする場合において、その法人の行為又は計算で、これを容認した場合には法人税の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その法人に係る法人税の課税標準若しくは欠損金額又は法人税の額を計算することができる。」という規定を適用して課税しようとしました。

 

 これに対しても、同裁判所はA社とB社が行った取引は資本等取引に基づくものであるから益金には当たらず(法人税法22条2項)、やはり法人税は課されない、と判示し、

 以上によって、税務署の主位的主張、予備的主張は理由なし、と納税者を勝訴させました。

 

 

 しかし、控訴審(平成16年1月28日/東京高等裁判所)ではこの判決をひっくり返したのです!