交際費課税(4)

 

 本件英文添削の差額負担が、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為といえるか否かについて

 

 

 Xは次のように論証しました。

 

 

 支出の相手方である研究者は、Xが英文添削料の差額を負担していることを知らず、利益を受けたことの認識がなかったのであるから、Xの支出は、「接待、供応、慰安、贈答」あるいは「これらに類する行為」にも該当しない。

 

 

 

 この論証に対し第1審の東京地裁では、

 

 金員の支出が「交際費等」に該当するためには、当該支出が事業に関係のある者のためにするものであること、

 

及び、支出の目的が接待等を意図するものであることを満たせば足りるというべきであって、

 

 接待等の相手方において、当該支出によって利益を受けることが必要であるとはいえないから、

 

 当該支出が「交際費等」に該当するための要件として、接待等が、その相手方において、当該支出によって利益を受けていると認識できるような客観的状況の下に行われることが必要であるということはできない。

 

と、税務署を支持したのです。

 

もっとも、今までの判決例では、

 

1 支出の相手方

2 支出の目的

 

の2つの要件のみで交際費に該当するとの認定がなされてきました。

 

そうすると、支出の目的は、名目を問わず、取引関係の円滑な進行を図るためにする利益供与、便宜の供与を広く含む概念と拡大解釈が可能でした。

 

 

 東京高裁は、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為のための支出を厳密に文理解釈してゆきます。

 

 支出の目的が接待等のためであるか否かについては、当該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断して決すべきである。

 

 また、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為であれば、それ以上に支出金額が高額なものであることや、その支出が不必要あるいは過大なものであることまでが必要とされるものではない。

 

 交際費は、企業会計上は費用であって、本来は課税の対象とならない支出に属するものである。

 

 それについて損金不算入の措置がとられているのは、交際費は、人間の種々の欲望を満たす支出であるため、それが非課税であれば、無駄に多額に支出され、企業の資本蓄積が阻害されるおそれがあること、また、営利の追求のあまり不当な支出によって、公正な取引が阻害され、ひいては価格形成に歪み等が生じること、さらに、交際費で受益する者のみが免税で利益を得ることに対する国民一般の不公平感を防止する必要があることなどによるものである。

 

 このような交際費課税制度の趣旨に加え、交際費等に該当するためには、行為の形態として「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」であることが必要であるとされていることからすれば、接待等に該当する行為すなわち交際行為とは、一般的に見て、相手方の快楽追求欲、金銭や物品の所有欲などを満足させる行為をいうと解される

 

 本件では課税の要件は法律で定めるとする租税法律主義(憲法84条)の観点からすると「その他これらに類する行為」を税務署の主張のように幅を広げて解釈できるか否か疑問である

 

そして、ある程度幅を広げて解釈することが許されるとしても、本件英文添削のように、それ自体が直接相手方の歓心を買うような行為ではなく、むしろ、学術研究に対する支援、学術奨励といった性格のものまでがその中に含まれると解することは、その字義からして無理があることは否定できない。

 

 本件は、研究者らにおいて、そのような差額相当の利得があることについて明確な認識がない場合なのであるから、その行為態様をこのような金銭の贈答の場合に準ずるものと考えることはできない

 

 本件英文添削が研究者らの名誉欲等の充足に結びつく面があるとしても、その程度は希薄なものであり、これをもって、本件英文添削の差額負担が、直接研究者らの歓心を買い、その欲望を満たすような行為であるということもできない。

 

 交際費等に該当する要件である「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」をある程度幅を広げて解釈したとしても、本件英文添削の差額負担がそれに当たるとすることは困難である。

 

と納税者を勝訴させました。