交際費課税(3)

 

 支出の動機、金額、態様、効果等が、事業関係者との親睦の度を密にし、取引関係の円滑な進行を図るという接待等の目的であったのか?

 

 Xは次のように論証しました。

 

 英文添削の依頼者は、Xが差額を負担していたことを知らなかったし、Xの英文添削はその質において優れたものであったが、そのことを研究者が認識していたわけではなく、それにより研究者に好印象をあたえるとか、歓心を買うことが期待できる状況ではなかった

 

 また、研究者の大半は、数年に1度しか論文を発表しないのであるから、英語論文の添削により、控訴人の医薬情報担当者が頻繁に研究者に面会できるという状況でもない。

 

 大学の付属病院に勤務する医師は、高い倫理観に基づき、患者のために最もよいと考えられる医薬品を処方する。Xが英文添削を行ったからといって処方を左右できるものではない

 

 まして、基礎医学を研究する者の英文添削を引き受けたからといって、医薬品を処方する医師が倫理規範に反して控訴人の製造・販売する医薬品を処方することは期待できない。  

 

 また、Xが英文添削の依頼を受けた研究者の中には、患者を診療しない基礎医学を研究する者や、処方権限がない大学院生・医員・留学生等が多数含まれている

 

 Xは、処方権限の有無や医薬品の購入申請への関与の有無等を何ら区別せずに、英文添削の依頼を受けていた。

 そして、投稿した論文が雑誌に掲載されるか否かは、研究内容によるのであるから、自己の論文が雑誌に掲載された研究者が、国内業者の平均的な料金を支払って添削を依頼したXに対して、ことさらに好感情を抱くことは期待できない。

 

 なお、Xに添削を依頼した研究者の大半が添削料金は支払ったものの、その論文が雑誌には掲載されることなく終っている。

 

 英文添削によって、好印象を抱かせたり、歓心を買ったりということは期待できない

 

これに対し東京高裁は、次のように判示しました。

 

 本件英文添削がなされるようになった経緯及び動機は、主として、海外の雑誌に研究論文を発表したいと考えている若手研究者らへの研究発表の便宜を図り、その支援をするということにあったと認められる。

 

 それに付随してその研究者らあるいはその属する医療機関との取引関係を円滑にするという意図、目的があったとしても、それが主たる動機であったとは認め難い。

 

 このような差額が生じるに至った経緯や、研究者らがそのような差額が生じていた事実を認識していたとは認め難いこと、また、がその差額負担の事実を研究者らに明らかにしたこともないことなどからすれば、Xが、上記差額負担の事実を、研究者らあるいはその属する医療機関との取引関係の上で、積極的に利用しようとしていたとはいえない

 

 そうすると、このような差額が生じるようになってからも、本件英文添削の基本的な動機、目的に変容があったと認めることは困難である。

 

 論文が世界的な名声を持つ医学雑誌に掲載されるか否かは、基本的にその研究内容で決まるものである。

 

 そして、実際には投稿した論文のうち、上記の医学雑誌等に掲載されるものはごくわずかであり、Xが英文添削を引き受けてきた論文数は、年間数千件にのぼるのに対し、そのうち世界の医学雑誌に掲載されたものはこの12年間で約400編にすぎず、本件英文添削が効を奏し、それによって研究者らが直接の利益を得られるという場合は必ずしも多くはない。

 

 本件英文添削は、若手の研究者らの研究発表を支援する目的で始まったものであり、その差額負担が発生してからも、そのような目的に基本的な変容はなかった。

 

 本件英文添削の依頼者は、主として若手の講師や助手であり、Xの取引との結びつきは決して強いものではない

 

 その態様も学術論文の英文添削の費用の一部の補助であるし、それが効を奏して雑誌掲載という成果を得られるものはその中のごく一部であることなどからすれば、本件英文添削の差額負担は、その支出の動機、金額、態様、効果等からして、事業関係者との親睦の度を密にし、取引関係の円滑な進行を図るという接待等の目的でなされたと認めることは困難である。

 

と、交際費課税要件の1つ目は税務署を支持しましたが、2つめはXを支持しました。

 

 

さて3つ目の要件、

 

本件英文添削の差額負担が、接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為といえるか否かについて、

 

Xはどのように論証すべきでしょうか?