みなし相続財産(3)

 3年間で引出された金額は合計約9千万円で、そのうち被相続人である夫のために支払われたと認定される3千万円を控除した残額が費途不明な6千万円である。

 

 費途不明金額のうち、税務署が職権で調査した相続人の妻のクレジットカード使用履歴内容からブランド品の購入に充てた金員が2千万円である。

 

 これらのブランド品の一つ一つをみると、通常の日常生活を営むのに必要であるものと認めることはできず、本件ブランド品購入代金は相続税法第21条の3第1項第2号に規定する扶養義務者相互間において生活費にあてるための贈与とは認められない。

 

 残金の4千万円について妻は相続開始前にすべて費消しているが、妻は何に費消したか記憶にないと答述し、具体的な証拠を示しておらず、税務署の調査によってもその費途は不明である。

 

 そうすると、その4千万円に満ちるまでの各出金行為は、対価を支払わないで同額の経済的利益を妻が受けたものと認められる。

 

 以上によれば、相続税法第9条の規定により、妻は6千万円を贈与により取得したものとみなすこととなる。

 

 そして、本件相続における相続税の課税価格に加算すべき財産の価額は、本件相続開始前3年以内に贈与により取得されたとみなされる財産の価額である。

 

 以上のような理論構成にし、みなし贈与財産と認定し、相続開始前3年以内の贈与加算として、相続税の課税財産を構成させることになります。

 通常の日常生活を営むのに必要であるものという概念は相続人等の家庭固有の事情であって、税務署が認定すべき範囲ではないと考えられます。しかし、妻が夫の知らない間に2千万円分のブランド品を勝手に購入していたら、部屋中にあふれるブランド品を見つけて、夫が元気な場合、必ず妻を責めるはずです。

 本件では夫は認知症を発症しており正確な判断ができない常況でした。妻は悪意や過失によるのではなく、精神疾患のために浪費をしてしまったという事実があります。費途が不明な4千万円についてはすでに手元に財産が存在せず、そこに担税力は見出すことができません。その4千万円の経済的利益自体に課税することが適切なのかというのはその家族の財産の構成等に照らして判断すべきものであると筆者は考えます。

 

 

 

 「我が家の遺法、人知るや否や、児孫のために美田を買はず。」

 

 

 

 との家訓に基づき、散財するのも課税されるリスクがあるので留意が必要です。