みなし相続財産(2)

 善なる意図、又は邪悪なる意図が世界を変えるならば、その意図は世界の限界のみを変えうるのであって、事実、即ち言語によって表現されうること、を変えることはできないのである。

 

 

幸福な人の世界は不幸な人の世界とは別の世界である

 

 

Wittgenstein,1918, " Logisch-philosophische Abhandlung/ Tractatus Logico - Philosophicus "

 邦訳、奥雅博

 

 

 

 不法行為は「故意」、「過失」による行為であることを要件とします。

 

 本件の場合、認知症の夫の介護による過度のストレスを起因とした買い物依存症は精神疾患の一つであり、夫の財産を夫の意思に反し減少させるものではありません。認知症の夫が大変な苦労を掛けた妻や家族に、気分転換においしいものでも食べてくれ、と思うのは日常考えられることです。おいしいものに係る金額の多寡はその家族の生活水準に基づくものです。当該経済的利益の享受は妻が「故意」に夫の財産を減少させるための行為ではありません。

 夫の預金は1億2千万円あり、「過失」により夫の財産を減少させ介護費用等がまかなえなくなったという事実もなく、妻は死に水を取りました。

 

 そもそも不法行為における妻の「故意」「過失」を主張する税務署が「故意」「過失」を証明する責任を負っているのです。

 

 したがって、夫の妻に対する損害賠償請求権とする、みなし相続財産としての課税は困難だと言えます。

 

 しかし、費途不明金は夫が認知症で施設に入所してから亡くなるまでの3年間で約6千万円でした。確かに経済的利益が存在しています。

 

 

税務署は論点をどのように変えればこの経済的利益に課税できるでしょうか?